錯体物性化学研究室

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      「メゾ領域の錯体化学」 (2012版化学科パンフレットより)
      「金属錯体を基盤として機能空間を構築」 (2011 理学部便りより)

金属錯体−膜複合体の構築

属錯体は、金属イオンに配位子と呼ばれる無機または有機分子及びイオンが結合したナノメートルサイズの無機−有機複合体分子であり、その構造と性質の多様性が特徴です。この金属錯体と、特異なメゾスケール (5-100 nm) 空間を形成可能な人工膜・生体膜を融合させて、新しい機能空間の創成を目指しています。脂質二重膜で形成される小胞体(リポソーム)や両親媒性分子によるベシクルのメゾ空間を基盤として、柔軟かつ異方的な空間の界面反応場(内表面、外表面、二重膜内部および内水相)に数種類の機能制御した金属錯体をオンデマンドで組み込んで、化学反応・電子移動・物質移動が動作する新しい『高機能な化学反応場』の研究を展開します。このような金属錯体−膜複合体では、すべての金属錯体分子表面が界面と近く、サイズによる構造揺らぎの許容度が大きいため、バルクと比べて外場による高速かつ高効率な機能制御が期待されます。例えば、組み込んだ金属錯体による対象分子の自在捕捉・放出や透過制御により、リポソーム内部に対象分子を濃縮する高効率的反応系の構築を目指します。金属錯体−膜複合体は、環境負荷の低い水中で機能するシステムであるため、グリーンケミストリーの観点からも有用です。また、生体親和性を有するため、ドラッグデリバリーシステム (DDS) など医療分野での応用も期待されます。現在は基礎研究段階にあり、主に以下の研究を進めています。

  • (1) 膜への親和性の高いコレステロール誘導体を配位子として用いた親脂質性金属錯体の合成とリポソームへの組み込み
    画像I1-1
  • (2) リポソーム内表面、外表面および内水相への金属錯体の選択的組み込み
    画像I1-2
  • (3) 対象分子に対して Gating 機能を示す外場応答性金属錯体の開発と脂質二分子膜内部への組み込み
    画像I1-3

外場応答性金属錯体の開発

子科学において、「個々の分子の空間配列を制御して高次組織化し、それら を動的かつ協同的に機能させる」ことは、一つの目標です。このような分子の高次組織体は、生体系においては、光合成などの電子移動系や生体分子モーターなどで重要な役割を担っています。一方、「無機物の優れた単一性能」と「有機物の多様性と性質の柔軟さ」が分子レベルで融合した「金属錯体」では、従来の無機材料にはない物性・機能の発現が期待されます。この金属錯体分子を規則的に連結して多次元構造に展開した「配位高分子」は、金属錯体の物性・機能を連動させて高度化する高次組織体形成の基盤となります。 本研究では、外部刺激により物性・機能を制御可能な集積系および孤立系の金属錯体の創出を目指しています。多様な機能性金属錯体分子を高次組織化して特異な相互作用空間を構築することで、金属錯体の機能・物性が連動する高度な刺激応答機能の能動的制御を達成します。そのために、金属錯体の組織化構造と相互作用部位の配置を合理的に制御して、金属錯体分子が動的かつ協同的に機能する相互作用空間をボトムアップ的に自在に構築する手法を開発します。特に、スピンクロスオーバー現象を示す金属イオンと相互作用部位を高次組織化した刺激応答性金属錯体を創出し、分子間の相互作用と物性・機能の相関を精細に解析して、外場によるゲスト吸脱着能の制御など、高度に連動した機能の能動的制御の化学原理を確立するとともに、新材料の開発へと展開します。これらの化合物は、生体微量物質のセンサーや高機能なドラッグデリバリーシステムなどへの応用が期待されます。現在は、以下のテーマを中心に、研究を進めています。

  • (1) 多孔性金属錯体 {Fe(pz)[Pt(CN)4]} を雛型として、最適化された相互作用部位の導入による、新しい刺激応答性の3次元多孔性、2次元層状および孤立系の金属錯体の開発
    画像I2-1
  • (2) SPring-8 の高輝度放射光を用いた外部刺激下における粉末X線回折のin situ測定、および精密電子密度分布解析を基にした静電ポテンシャルイメージングによるゲスト分子と骨格間の相互作用の可視化
    画像I2-2
  • (3) 光刺激による分子吸着・放出の制御と特定分子の高感度センシング

空間秩序研究 (SPring-8)

間秩序研究チームは理研子秩序研究グループの中の1つであり、「ピコ秒レベルの時間領域において、電子の空間分布及び空間秩序をナノメートル空間スケールで実空間イメージングすることによる、先端材料の機能発現機構の解明」を目指しています。本研究目的を達成するために、SPring-8 の新たな活用方法や測定技術も開発し、従来の放射光を用いたX線構造解析からさらに進んで、電子秩序と物質構造機能の解明を行っています。 具体的には、以下の内容を中心に進めています。

  • (1) 規則性の高いナノスケールの細孔をもつ多孔性配位高分子を用いて、ラマンスペクトルと粉末X線回折の同時測定により細孔中へのガス分子吸着の動的過程を調べる。空間構造、電子構造情報をもとに新しい貯蔵、分離、触媒材料の設計・創製
  • (2) ナノ細孔中に吸着されたガス分子による骨格構造の物性の自在制御、及びホスト−ゲスト相互作用の直接的可視化
  • (3) 遷移金属錯体・有機導体等において、電荷秩序形成・融解ダイナミクスにおける相分離状態のナノレベルでの三次元マッピング、および光・電場・熱の多重外場による励起過程の直接的可視化