実験室一覧
普段私たちが研究を行っている実験室となります。展開先で各部屋の環境・機器を詳しく紹介します。
B909 合成室
この部屋で実験に使われるサンプルの合成から精製までの全工程が行われます。最も多くの試薬を保管している部屋でもあり、私たちの研究活動の基盤となる部屋となっています。
- 液体クロマトグラフィー-質量分析装置 (LC-MS/MS)
混合試料を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離し、その後エレクトロスプレーイオン化 (ESI) によりイオン化し、トリプル四重極型質量分析(MS)によって分析を行う装置です
本装置は非常に高感度なMS/MSシステムを搭載しており、ごく微量(数 nM~数百 pM)な成分であっても検出し解析することができます。
当研究室では、脂質や天然有機化合物などの疎水性試料の定性・定量解析に利用しています。
(HPLCの分離原理は2つ下の
HPLCの項目を参照)
この装置では、装置内を減圧しながら試料を加熱することで溶媒を留去し、試料の濃縮を行うことができます。
有機合成の際にはなくてはならない装置です。
- 高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography: HPLC)
HPLCは、内径3-5 µm程度の微粒子を充填したカラムに試料溶液を通し、各物質のカラム内部にある固定相との相互作用の強さの違いによって混合物を分離する(クロマトグラフィー)ことができる装置です。
分離された試料は、UV吸収検出器、蛍光検出器、ESI-MSなどと接続して検出することで、ピークとして検出されます。
各ピークの溶出時間、分光学的特性、MSスペクトル情報などを解析することで定性分析を、ピーク面積を計算することで定量分析を行うことができます。
また分離後の試料を試験管などに分取することで、合成した化合物や脂質などの精製にも用いることができます。
B910 分析室
B910には蛍光顕微鏡や分光蛍光顕微鏡など基本的な分析機器がそろっています。蛍光によるサンプルの観察や微量な試料の測定等が行われます。
この顕微鏡では、蛍光観察法や位相差観察法を用いた試料の観察ができます。
蛍光観察法では、まず観察したい蛍光分子に対応した波長の励起光を試料に照射します。
励起された蛍光分子が発した蛍光を対物レンズで集光し、光学フィルターによって散乱光などのバックグラウンド光を取り除いた後、カメラへ結像させて画像として取得します。
観察に用いる励起・蛍光波長に対応した蛍光分子のみを高感度に可視化できるため、細胞膜や核などを選択的に染色できる蛍光色素 (蛍光プローブ) を用いることで、細胞の詳細な形状や動きを観察できます。
当研究室では、独自の蛍光脂質プローブを開発して人工膜や生細胞を染色することで、多様な脂質分子の挙動や分布を詳細に解析するために用いています。
遠心分離機ではローターを高速で回転させることで遠心力を発生させることで、比重の異なる液体や固体を分離できます。
当研究室では脂質懸濁液中の脂質を沈殿させ回収したり、タンパク質溶液中の不溶物を除去したりと試料を調製する際に多く用いられます。
分光蛍光光度計は、試料溶液へ照射する励起光の波長と検出波長をそれぞれ自由に変更しながら蛍光強度を測定できる装置です。
検出波長を固定しながら励起波長を走査して蛍光強度を測定すれば励起スペクトルが、励起波長を固定しながら検出波長を走査して蛍光強度を測定すれば蛍光スペクトルが得られ、蛍光分子の分光学的特性を解析するために用いられます。
当研究室では開発した蛍光脂質プローブの分光学特性を解析するだけでなく,蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用した分子間相互作用解析、LaurdanやDPHなどの膜環境感受性色素を用いた膜環境分析、PyranineなどのpHインジケーターを利用した膜タンパク質の活性分析など、様々な用途に使用されています。
(日本分析機器工業会(JAIMA)の装置紹介ページは
こちら)
この装置では試料溶液中に強度の決まった光を波長を変化させつつ照射し、透過後のスペクトルを分析することで得られる試料の吸収スペクトルから、試料の持つ分光学的特性を取得することができます。
吸収スペクトルのピークの高さや形状は、試料濃度や試料の分子構造によって異なるため、分光学的特性を取得することによってこれらを予測することができます。例えば試料濃度についてはLambert–Beerの法則を用いることで比較的容易に求めることができますので、当研究室ではリン定量を用いた脂質の定量分析や蛍光溶液の濃度測定等に用いています。
また、当研究室ではより精度の高いダブルビーム方式の分光光度計を用いています。
分光光度計には大きく分けてシングルビーム方式とダブルビーム方式の二種類が存在しており、ダブルビーム方式では装置に起因するドリフト(単位時間当たりの測定値の変動)の補正ができるためシングルビーム方式より精度よく安定した測定が可能です。
(日本分析機器工業会(JAIMA)の装置紹介ページは
こちら)
- 動的光散乱測定器(Dynamic Light Scattering: DLS)
DLS分析装置では微粒子を含む溶液にレーザーを照射し、乱反射によって生じる散乱光のゆらぎを観測することで、溶液中に分散した粒子のブラウン運動の速さを求め、粒径の分布を測定することができます。
水面上に脂質分子を分散させると単分子膜が形成されます。この装置を用いて単分子膜を下からすくいとることで、固定基板上に単分子膜や、単分子膜が積み重なった累積膜であるLB膜を作製することができます。
こうして作製されたLB膜は、電子線散乱実験などの膜中における脂質分子の配向を分析する際に使用されます。
また本装置では表面膜圧を測定可能であり、表面圧-面積曲線(π-A曲線)をプロットし解析することで脂質単層膜の硬さを評価することもできます。
海洋プランクトンである渦鞭毛藻は赤潮の原因生物でもあり、マイトトキシンといった超炭素鎖有機化合物を産生することが知られています。
当研究室ではアンフィジノール類を産生する渦鞭毛藻Amphidinium klebsiiの培養を行っており、アンフィジノール類の単離や天然物ソースして利用しています。
この装置では、設定した電圧および周波数の交流電圧を印加することができます。
当研究室では、エレクトロフォーメーション法を用いた巨大単層リポソーム(giant unilamellar vesicle, GUV)の作製にこの装置を利用しています。
エレクトロフォーメーション法は、溶媒中の脂質フィルムに交流電圧を印加することで膜を剥離させGUVを作製する方法で、同じく作製法として挙げられる静置水和法よりも効率よくGUVを作製することができます。
ここで作成されるGUVは脂質二重膜が水溶液中で自然に閉じて形成される人工膜小胞であり、直径がマイクロメーターオーダーの物を指します。
GUVは細胞と同程度の大きさであり、簡易的な脂質二重膜であるため、生体膜のモデルとして当研究室でも多く用いられています。
B911 微量分析室
B911分析室は、キャビラリー電気泳動装置 (Capillary Electrophoresis, CE) や液体クロマトグラフィー (Liquid Chromatography, LC)、エレクトロスプレーイオン化-質量分析装置 (ElectroSpray Ionization-Mass Spectrometry, ESI-MS) など、化学分析に関連した実験装置が多くある実験室です。
この部屋では最先端の分析装置を導入するだけではなく、私たち自身が設計した新しいデバイスや分析原理を取り入れた革新的な分析システムを開発することで、世界最先端 (主に世界最高感度) のバイオ分析研究を展開しています。
- エレクトロスプレーイオン化-質量分析 (ESI-MS)
ESI-MSでは、試料に電圧を印加してイオン化し、質量電荷比 (
m/z) の違いに基づいて分離することで分子構造や分子数を決定します。
イオンを分離する方法には飛行時間型 (
Time-
Of-
Flight, TOF) や四重極型 (
Quadrupole, Q) など、様々なタイプがあります。
例えばQは、4つの電極に交流電圧を印加することで、特定の
m/zのイオンのみを透過する質量フィルターとして機能します。
TOFでは、重い分子 (
m/zが大きなイオン) ほど電場中で加速しにくい性質を利用し、各イオンの速度を計測することで
m/zを精度よく決定できます。
またQとTOFを組み合わせたQ-TOFなどの複合型のMSも存在します。
当研究室では高感度なトリプル四重極や網羅性が高いQ-TOFなどの異なるタイプのMSを保有しており、対象試料の種類や測定の目的に合わせて上手く使い分けて利用しています。
下の図は脂質の一種であるdioleoyl phosphatidylcholine (DOPC) をQ-TOF型のMSで分析した結果を示しています。イオン化したDOPCは m/z = 786.6134 で [DOPC-H+] として検出されています。
m/z =786.6134に高く出ているピークが [DOPC-H+] であり、787…、788…と出ているのはC原子による同位体のピークが検出されている。m/z=500より下のピークはDOPCを溶かしている溶媒由来のピークである。
CEは、内径が50 µm ほどの“細い管”に数万ボルトもの高電圧をかけ、イオン性の分子を高効率に分離する手法です。CEは電荷とサイズの比で化合物を分離することができるため、当研究室では主に代謝物・ペプチド・糖鎖・タンパク質などの生体分子の分離に用いています。
またドデシル硫酸ナトリウムなどのイオン性界面活性剤を泳動液に添加することで、脂質などの疎水性かつ中性の分子を分離することもできます。
さらに当研究室では、キャピラリー内部で生体分子を電気的に数千倍も濃縮する技術を開発しています。
濃縮・分離された生体分子をnanoESI-MSやレーザー励起蛍光検出法などと組み合わせることで、zmol (10
-21 mol = 約600分子) レベルの超高感度な分析を実現しています。
LCは、小さな粒子を詰めたカラムの中に試料溶液を通し、主に試料と粒子表面との相互作用の強さの違いによって分離する手法です。
分離された試料は、蛍光検出器やESI-MSと接続することで高感度かつ網羅的に解析することができます。
LCでは一般的にカラム内の粒子が小さければ小さいほど分離がよくなりますが、粒子の隙間が狭くなるためカラムに溶液を通すためには高い圧力が必要になります。
当研究室のLC装置は60-130 MPaの超高圧で送液が可能なUPLCとなっており、脂質や糖鎖などの多様な生体分子を高効率に分離するために使用しています。
マイクロマニピュレーターは、1 µmレベルの精度で動かすことができる精密XYZステージです。
先端径が数µm程度のマイクロニードルを装着すれば、顕微鏡ステージ上で自由に操作して分析を行いたい特定の細胞を一個だけ採取することができます (それはさながらUFOキャッチャーのように!)。
下の画像は、ガラス製のマイクロニードルで細胞一個の細胞質だけを採取した際の写真です。
細胞に穴が開いており、ニードルが細胞の中に入ったことがわかります。
当研究室ではこの技術を一細胞やリポソームなどの微小試料の採取に利用し、ESI-MSやCEで解析することで新たな生命現象の解明を目指しています。
採取後の画像では細胞真ん中の核が白くなっており、採取されなくなってしまっていることがわかる。
採取前の同じ場所に白く光の筋が見えるのはニードルが映り込んでしまっているため。
B808 培養室
B808では実験で用いる動物細胞を培養しています。培養した細胞を蛍光プローブなどで標識して観察に用いており、薬剤や天然物が細胞に及ぼす影響を調査しています。また、研究に使用するタンパク質の合成・抽出のための菌類の培養もここで行っています。
細胞培養の天敵となるホコリや細菌の混入を防ぎ,清潔状態で作業することのできる装置です。
温度と二酸化炭素濃度と湿度を一定にすることで,細胞を生体内環境に近い状態で培養することができます。
弱い遠心力を発生させる簡易的な遠心機です。
ダメージを受けやすいサンプルに遠心力をかける際はこの装置を使用します。
-80℃で試料を保存する冷凍庫です。
細胞やタンパク質等の消費期限が短かったり,保管が難しかったりする試料を補完するための場所です。
また,リポソームの調整のために急速冷凍を目的として使用する用途もあります。
D403 加工室
D403加工室には、ガラスプラーやマイクロフォージ、スパッタ装置などのデバイス加工装置、また凍結ミクロトームやレーザーマイクロダイセクション (Laser MicroDissection, LMD) などの組織試料 (マウスやヒトの検体) を採取するための装置を置いています。
この部屋で加工したマイクロニードルなどの独自デバイスは、B911化学分析室で細胞採取や高感度分析のために利用されます。また、同じくD403で採取した組織微小環境などの生体試料をB911で超高感度分析することで、医療・創薬に向けたバイオ分析研究を展開しています。
ガラスプラーでは内径1 mmほどのガラス管をセットし、引っ張る力・速さ、加熱温度などを指定してガラス管を引っ張ることで、先端径が100 nm ~ 1 µm程度のマイクロ・ナノニードルを効率よく作製することができます。
マイクロフォージは、加熱可能な白金線を備えており、これを加熱し先端が閉じた状態のニードルに好きな部分でひびを入れることで、ニードルをカットし先端を開けることができます。
これにより、マイクロニードルの先端径を調整することができます。
これにより先端から溶液・細胞を吸引することができるニードルを作成します。
スパッタリング装置は、ガラス製マイクロニードルなどの物体表面を白金や金などの金属でコーティングするための装置です。
ステージにニードルを置き、真空状態にして電圧を印可すると、ステージ上にある白金ターゲットがプラズマによってから削れ飛び散り、直下にあるニードルがコーティングされます。
この作業を行うことによりニードル先端まで電圧を印加することができるようになり、nanoESIでの分析に適したニードルへと仕上げることができます。
凍結ミクロトームは、簡単に言えば超精密なスライサーです。
凍らせた組織などに対して剃刀を10 µmずつ接近させて削っていくことで、均一な厚みの組織薄切を作製することができます (カンナでかつお節を削るイメージです)。
LMDは、光学顕微鏡で組織切片を観察しながら、切り抜きたい領域 (病気の領域など) をタッチペンで指定し、レーザーで打ち抜く装置です。
生体組織は培養細胞と異なり、細胞同士が強固に結合しているためマイクロマニピュレーターでは採取が困難です。
LMDを用いることで直感的かつ簡単に微小領域を採取することが可能となります。
当研究室では、がん微小環境などの微小な病理検体を対象に、そこに含まれる生体分子を解析したり、薬剤がどれくらい効いているかを解析したりすることで、新しい医療・診断・創薬を目指したバイオ分析研究を展開しています。
下の画像は実際に生体組織をレーザーで打ち抜いた前後の画像です。
その他共通機器
研究においては当研究室所有の機器だけでなく、他研究室や他機関の機器をお借りして実験することもあります。ここではその一部を紹介いたします。
レーザー共焦点光学系を用いて、より高解像度の蛍光イメージ取得と三次元情報の再構築を可能とした顕微鏡です。
共焦点光学系とは,照明系(コンデンサレンズ)と撮像系(対物レンズ)が、観察試料の同じ位置に焦点をもつようにデザインされた光学系のことです。
指向性と収束性に優れたコヒーレント光を照射するため、光を均一に照射する光学顕微鏡と比較して、ごく限られた範囲の蛍光色素のみが励起されるようになっています。
また、2つの「ピンホール」によって、焦点面以外からの光を排除できる特長をもっており、これによってコントラストの高いクリアな観察画像が得られます。
例えば、通常の顕微鏡で厚みのある試料を測定すると、焦点面からの蛍光以外にも、上端と下端などの焦点が合っていない面から生じた蛍光が重なって観察されるため、ボケた画像しか得ることができません。
一方で共焦点顕微鏡では、焦点面から外れた面から発された蛍光をピンホールで遮断することで、焦点面の蛍光のみを反映したボケのない像を得られます。
焦点面をずらしながら高さ方向に2次元画像をスキャンしてコンピュータで再構成することで、3次元画像を得ることができます。
また、共焦点顕微鏡では蛍光相関分光法(FCS)という技術を用いて蛍光物質の分子運動を調べることができます。
FCSは試料の微小領域にレーザー光を当て,蛍光強度の揺らぎを測定し,その自己相関関数から,分子の拡散係数,大きさなどを求める方法です。
当研究室ではこれらの技術を使用し、主に麻酔剤や天然物が人工膜や細胞膜に与える影響を観察しています。