ナノ物質科学の新たなフェーズを切り拓くことを目標に、原子の数が正確に定まった
極微小な粒子「クラスター」に着目しています。数個〜数十個の原子で構成される
クラスターの特質は、原子1個の増減で物性や反応性が不規則かつ劇的に変化すること
であり、従来の常識を超えた新物質の発見が期待されています。そのため、希少な元素
を新たな材料で置き換える元素代替の視点で特に注目されます。例えば、触媒に代表
される化学反応では、活性点となるナノ構造を切り出したクラスターが反応の本質理解
と新規材料の設計につながり、白金など従来の触媒材料を一変させる可能性を秘めて
います。また、宇宙空間で分子が合成される過程においてクラスターが反応の鍵を
握っているとの仮説があり、科学の広い分野で注目されています。
我々は、クラスターが関与する物理・化学現象に広く着目し、物理化学の視点と研究
手段で探究しています。原子の数(サイズ)をパラメータとしてサイズ効果を捉え、
これら新たな物質群の科学を深化し体系化する研究を推進しています。具体的な研究
手段として、質量分析技術で原子1個の精度でサイズを制御するクラスター発生法、
反応生成物の時々刻々の変化を捉える化学反応追跡法、レーザーや放射光を利用した
分光法など、最先端の実験手段を駆使して、物性・反応性の究明とともに新たな物
質の創製に取り組んでいます。
我々は一方で、ミクロ(原子・分子・クラスター)からマクロ(液相・固相)までを
つなぐ科学の開拓を目指しています。これまでに解明を進めてきているミクロな物質の
特性がマクロな領域の現象に波及する過程を、物質科学の本質的な問題と捉えています。
具体的には、遷移金属の磁性の発達、金属中の電子の光応答における表面プラズモン
共鳴の発達、微小液滴の固液相転移ダイナミクスなどの研究に取り組んで、新たな問
題を掘り起こしています。
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